「バラ一族」初の3歳G1制覇を果たしたスタニングローズ…「いつかは」の言葉に鼓舞された日々

秋華賞を制したスタニングローズ
秋華賞を制したスタニングローズ

 しばらく放心状態だった。16日の秋華賞。混戦のゴール前を、力強く抜け出したスタニングローズの姿に、そんな状態に陥った競馬ファンは多かったはずだが、記者もその1人だった。同馬がフラワーCを勝った時に、今春で終了した紙面コラム「競馬のミカタ」でも紹介した、「バラ一族」初の3歳限定G1制覇への思いが結実し、熱い思いをたぎらせていた遠き日が思い起こされた。

 「バラ一族」とは、同馬の4代母ローザネイから広がる牝系で、馬名に「バラ」がつくことで知られ、競馬ファンにはおなじみ。一族からは、重賞勝ち馬がずらりと並び、重賞5勝のロサード、ローズバド、一族初のG1勝利を手にしたローズキングダム(09年朝日杯FS、10年ジャパンC)など…、スターホースが居並ぶ日本を代表する名家だ。それでも、不思議と3歳限定G1に縁がなかった。ただ、この「いつかは」の言葉が、記者の、ファンの心をずっと鼓舞し続けたのは言うまでもない。

 20代だった夕刊紙時代。栗東取材で出合ったのがローズバド。当時、一族の多くを管理した橋口弘次郎元調教師のもとに足しげく通ったが、関東からきた素性もよく分からない駆け出しの記者にも、クラシック、G1への思いを伝え続けてくれた。「能力はある。いつかは」。

 重賞は勝つ、でも、G1には届かない。それでも、どんな時でもしまいは確実に脚を使って前へ、前へと走り続ける。その愛すべき姿に何度も心を打たれた。若く仕事もうまくいかない日々の中で、この「いつかは」の言葉を自分に置き換え、前を向き続けたことを、昨日の事のように思い出した。

 馬に自分の姿を投影させる。予想を当て、馬券を当てることも競馬の魅力ではあるが、自身が追い続けた馬が、思いを遂げたときの感動もまた格別だ。競馬ファンならだれでも、「推し馬」がいるだろうと思うが、その1頭で終わるわけではない。その子どもがターフを走り、そのまた子どもが一族の思いを背負って戻ってくる。ブラッドスポーツの醍醐味、だから競馬はやめられない。

 「いつかは、きっと」―。これからも、誰かの心に馬たちの走りがきっと届く。すてきな週末が続いていく、そう信じている。(中央競馬担当・松末 守司)

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