
◆香港カップ・G1(12月11日、シャティン競馬場・芝2000メートル)
国内外で頂点を狙う戦いに打って出る。「世界のYAHAGI」が本領を発揮する時がきた。過去、同一週に国内と海外重賞を制覇したのは自身が成し遂げた2回のみ。いずれもG1となれば史上初だ。「もちろん、そのつもりでやっている」。前人未踏の快挙へ挑む強い気持ちが、矢作調教師の眼光を鋭く光らせた。
昨年、ラヴズオンリーユーで制した香港Cにはパンサラッサがスタンバイ。前走の天皇賞・秋は後続を15馬身近く引き離す大逃げから2着。府中の杜をどよめきに包み込んだ。
「あれが本来の姿だと思う。もちろん、悔しいのが一番だけど、ファンが喜んでくれたんじゃないかな。反響がすごかったので、それがうれしかったね。今後あの馬が出てきたら盛り上がるだろうし、競馬全体を考えてもそうですよね」
目標とする「世界一ファンに愛される厩舎」を体現するための次なるターゲットは香港。実は早くから狙っていた舞台だ。
「非常に向いていると思うからです。平坦で、日本ほど高速ではない。最近はスピード競馬も対応しているけど、本来は少し時計がかかる馬場がいいと思っているタイプ。(海外では)調整がやりやすいし、そういう意味でも向いています」
一方、国内の阪神JFはラヴェルだ。新馬、アルテミスSを連勝し、無敗の2歳女王を狙う。
「パンサラッサとは対照的な良血の優等生というかね。イクイノックスもそうだけど、キタサンブラックで上まで行く馬は瞬発力も備えているのかな、と思う。いい馬です。古馬になって、さらに良くなると思うけど、現時点でも力は最上位クラスの一頭だと思うから、あとは運があればというイメージですね」
鞍上には坂井。今年は秋華賞でJRAのG1初勝利を挙げ、JRAのリーディング争いでも、キャリアハイを大きく上回る89勝(4日時点)と全国8位の大躍進だ。
「去年のフランス(夏から秋までの武者修行)から帰ってきて、見違えるようによくなった。ゲートがうまい。特に最近は目立つね。本当に速い。それに積極性。ずっと本人が研究して積み重ねてきたし、俺は『馬券を買ってくれる人が納得する競馬をしなさい』とずっと言ってきた。厳しく見ているつもりだけど、納得のいく競馬をしてくれているなと思う」
今年も厩舎は順調に白星を重ねてきた。先週までに55勝を挙げ、3年連続のJRA賞最多勝トレーナーに向けトップを快走する。「忙しかったよな」と苦笑いを浮かべた一年も、もうすぐ幕を閉じる。
「有馬は(出走馬が)ないと思うから、何とか取りたいな。その思いが強いです。それでいい年になった、と言えると思うので」
力強い口調から伝わる確かな手応え。再び、日本競馬史に新たな一ページを刻む。(山本 武志)