歴史的な猛暑が日本列島を襲う今夏、猛威は人だけでなく放牧中の現役G1馬にも及んだ。JRAは9日、2022年の菊花賞・G1を制したアスクビクターモア(牡4歳、美浦・田村康仁厩舎)が、放牧先で熱中症による多臓器不全を発症し、8日に死んだと発表。JRAは8日付で競走馬登録を抹消した。
3歳時の昨年、報知杯弥生賞ディープインパクト記念で重賞初制覇。その後、クラシック3冠競走全てに出走し、皐月賞5着、日本ダービー3着、菊花賞で悲願の勝利を挙げた。
日本ダービーは、53歳で最年長勝利記録をつくった武豊騎手のドウデュースが勝ち、2着はその後に海外G1を含むG14連勝で現在の世界ランキング1位、イクイノックスだった。これら強豪とレースレコード決着の激戦を繰り広げた。4歳になった今年はG12レースを含む3戦して未勝利だったが、秋に向け、復活を期すべく放牧で英気を養っている最中だった。
競走馬に限らず馬は人間と発汗作用が異なるため、一般的に暑さに弱いとされる。獣医師の免許を持つ、米ケンタッキー州・ウィンチェスターファームの吉田直哉代表が連載する昨年7月28日付本紙競馬面コラム「ワールドリポート」によると「馬の熱中症がどういうものかというと、前触れがほとんどなく突然倒れて呼吸速拍、起立不能となり全身がこわばるなど厳しい状況になる。脱水症状を抑えるために点滴し、冷水または氷で馬体を冷やして回復を待つしか手の打ちようがない」という。
◆アスクビクターモア 北海道千歳市の社台ファーム生産で父ディープインパクト、母カルティカ(母の父レインボウクウェスト)。20年のセレクトセールで1億7000万円で落札された。通算成績は12戦4勝で獲得賞金は3億4527万5000円(付加賞含む)。
◆競走中の事故以外で死んだ主な現役G1馬
▽ラインクラフト(05年NHKマイルC、桜花賞)06年8月に放牧先の北海道・ノーザンファーム空港牧場で急性心不全のため。
▽アストンマーチャン(07年スプリンターズS)08年4月に滋賀県・栗東トレーニングセンターで急性心不全のため。
▽ジョワドヴィーヴル(11年阪神JF)13年5月に栗東トレーニングセンターで左下腿骨開放骨折のため安楽死。
▽ワグネリアン(18年日本ダービー)22年1月に胆石が原因による多臓器不全のため栗東トレーニングセンターで急死。
▽スノーフォール(21年英愛オークスを含むG13勝のディープインパクト産駒)22年1月に骨盤のけがのため安楽死。