◆香港国際競走・G1(12月10日、シャティン競馬場)
JRA海外馬券発売レースの香港国際競走は10日、シャティン競馬場で開催される。G1・4競走で計18勝と日本勢好相性の舞台に初めて挑むのが、田中博康調教師(38)だ。開業6年目の今年は初タイトルから地方交流を含めて重賞7勝、G1・3勝と全面開花。3日のチャンピオンズC制覇の勢いを駆り、海外も初戴冠を目指す。
破竹の勢いと言うほかない。田中博厩舎は開業6年目の今年、G1・3勝(1勝は地方交流)を含む重賞7勝。初重賞が1月のレモンポップによる根岸Sだったことを思えば、めざましい躍進だ。5日が38回目の誕生日となった若き指揮官は「積み重ねてきたものが形になってきた、というところです。なかなか大きなタイトルは取れなかったので、自信にはなりますね」と、はにかみながら説明。「抽象的で申し訳ないですが、ひと言では説明できないので…」と具体的な手法には口を閉ざしたが、周囲の証言にそのヒントはある。
3日のチャンピオンズCはレモンポップで快勝したが、実は2着のウィルソンテソーロも田中博厩舎から小手川厩舎への転厩馬。小手川調教師は「普段から手がかからないし、よくしつけられてる。前の厩舎がしっかりしていたんでしょう」と絶賛する。トレセンでは所属馬が10頭近い群れをなして隊列を乱さず調教コースを回る様子も見られるが、繊細な競走馬としてはかなり珍しい光景。所属馬に騎乗し、従順さに驚く騎手もいるという。
トレーナーは「そう言ってもらえるのはうれしいですね。普段から意識しているところですから」と相好を崩す。ただ、その背景として恵まれた環境への感謝も忘れない。「スタッフ1人につき2頭持ちでやっているんですが、これは賞金の安い海外では考えられません。だからこそ、一頭一頭にしっかりコミットできているんだと思います」。騎手時代にフランスに渡り、調教師になってからも香港、フランスで研修したからこそ、日本の競馬文化の偉大さを痛感している。
国内に名をとどろかせて向かう初の香港遠征。重賞連勝の勢いでメインのカップに挑むローシャムパーク、同じく前走重賞勝ちでヴァーズに出走するレーベンスティールともに、状態は申し分ない。「馬場の適性はあると思うし、香港はイージーな遠征ですからね。チャンスはあると思います」。イクイノックスの引退で空位となった世界ランキング1位に再び日本馬を送り込むべく、一気の海外G1初制覇を狙う。(角田 晨)
◆田中 博康(たなか・ひろやす)1985年12月5日、埼玉県新座市生まれ。38歳。06年3月に騎手デビューし、JRA通算129勝。09年エリザベス女王杯(クィーンスプマンテ)のG1・1勝を含む重賞3勝を挙げた。17年に調教師試験に合格し、18年に美浦で開業。JRA通算144勝(4日現在)。