引退馬の近況を紹介する夏競馬企画「なつウマ」は、無傷の6連勝で古馬混合G1のエリザベス女王杯を制すなど存在感を示したファインモーション(牝23歳)を取り上げる。病気のため繁殖牝馬として産駒を残せなかったが、スマホアプリ「ウマ娘プリティーダービー」では“殿下”の愛称で再び脚光を浴び始めている。北海道浦河町の伏木田牧場でセカンドキャリアを過ごす名牝に迫った。
アイルランドのお嬢さまに“門限”はない。伏木田修代表(43)がファインモーションの放牧地に入ると、ゆっくり弾むような脚取りで寄ってくる。スマホアプリ「ウマ娘プリティーダービー」では、アイルランドからの留学生でSP付きの「殿下」として親しまれている。
アプリのキャラは門限が日没だが、本物は「朝9時から翌朝の5時まで20時間昼夜放牧をやっています」と伏木田代表。6頭のグループに身を置いている今はウォーターエナンなど繁殖を終えた後輩の面倒を見ながら、“門限”に縛られない生活を送る。
のちに名牝と称される同馬は伏木田牧場の生産馬ではなく、当時の牧場代表・達男氏がアイルランドから購入したデインヒル産駒。現役時代はデビューから無傷の6連勝でエリザベス女王杯を制すなど一気にスターダムにのし上がった。6戦目での古馬混合G1制覇は当時の最速かつ史上初めての無敗。86年の鳴尾記念をロンスパークで制してから重賞タイトルが遠ざかっていた牧場にとっては、待望の活躍馬だった。
「『お助けホース』ですよ。牧場(の経営)が苦しい時に助けてくれましたから」と現代表は当時を振り返る。武豊騎手がまたがった時には「よし、これでダービー行きましょう」と、牡馬と間違うほどのパワーを備えていたという。
染色体異常で繁殖牝馬にはなれなかったが、激しかった気性もすっかり落ち着いた。3年前の腰の負傷からも復活。爪を痛めて休むケースもあるが、まだまだ老け込んではいない。「今は23歳ですけど、何の不満もないと思いますよ」と伏木田代表。20年前に日本をアッと言わせた“留学生”は今も気品を漂わせている。(恩田 諭)
◆ファインモーション 1999年1月27日、アイルランドのバロンズタウンスタッド&オーペンデール生まれ。牝23歳。父デインヒル、母ココット(父トロイ)。栗東・伊藤雄二厩舎から2001年にデビュー。デビュー5戦目の秋華賞を無敗でG1初制覇。続くエリザベス女王杯でG1連勝を飾り、古馬でも札幌記念を勝つなど重賞は5勝をマーク。04年に引退した。通算成績は15戦8勝。獲得賞金は4億9451万8000円。馬主は伏木田達男氏。
◆(有)伏木田(ふしきだ)牧場 1902年に創業した北海道浦河町の名門牧場で今年が開業120年目。64年有馬記念・G1を制したヤマトキヨウダイ、昨年のファンタジーS・G3を制し、桜花賞・G1で2着に好走したウォーターナビレラなどを生産。現代表の修氏が6代目。繁殖牝馬12頭。従業員6人。