【有馬記念 G1ファンファーレ物語3】演奏は「難しい」。でも「日本人の琴線に触れる。起承転結がある」

G1ファンファーレを高らかに奏でる陸上自衛隊中央音楽隊(東京・朝霞駐屯地で)
G1ファンファーレを高らかに奏でる陸上自衛隊中央音楽隊(東京・朝霞駐屯地で)
陸上自衛隊中央音楽隊・樋口孝博隊長
陸上自衛隊中央音楽隊・樋口孝博隊長

◆第66回有馬記念・G1(12月26日・芝2500メートル、中山競馬場)

 師走の冷たい空気が18人の演奏によって、熱気へと変わった。陸上自衛隊・朝霞駐屯地(東京都練馬区)。そこで研さんを積むのが、陸上自衛隊中央音楽隊の面々である。練習で演奏したG1ファンファーレが広場に響く。「本番より、うまいなあ」。声の主は音楽隊隊長である樋口孝博(1等陸佐)だった。

 陸上自衛隊中央音楽隊は、全国に21ある陸上自衛隊・音楽隊のトップに位置し、選ばれた約100人が集う。今年で70周年。国賓、公賓の歓迎行事の演奏、天皇即位の礼、五輪など、国家的な行事に参加してきた。もちろん定期演奏会、コンサートツアーも行う。

 隊長の樋口は武蔵野音楽大学を卒業後、幹部候補生として1986年に入隊した。すぎやまこういちのファンファーレ誕生と時を同じくする。「変拍子(5拍子)で難しいです。でも、日本人の琴線に触れるというか、演出にたけている。起承転結がある」。

 中央音楽隊は主に日本ダービー、ジャパンCのファンファーレを担当してきた。樋口が日本ダービーで初めて指揮を執ったのが1998年。武豊がスペシャルウィークで念願の初制覇を成し遂げた記念すべき年だった。それから2003年まで6年連続で競馬の祭典を盛り上げた。「ある年、お客様から声がかかったんです。頼んだぞ、樋口!と…」。笑い話だが、東京競馬場のターフビジョンに「指揮・樋口孝博」の表示があったという。

 中央音楽隊の大切な任務は、国賓、公賓の歓迎行事である。頻繁に海外に出向いて「国際交流」も行う。「世界的に見ても音楽隊・軍楽隊は平和のシンボルです」。樋口は古い写真を見ながら音楽隊の足跡を振り返った。

 ミスが許されない状況で音楽隊を率いてきた大御所でも十万を超える競馬場の大観衆を前にすると「緊張する」と言う。「日本武道館の自衛隊音楽まつりでも、約8000人です。東京競馬場の内馬場までお客様が入った状態のなかですから。だから、言いたくはありませんが、本番より練習の方が響きがいいんです」。まさにプレッシャーとの闘いだった。=つづく=(敬称略 編集委員・吉田哲也)

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