◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」
我が子を見守るような温かいまなざしだった。「無事にゴールしてほしいですね」。年末の京都競馬場。所有馬を出走させるソフトバンクホークスの柳田悠岐選手(36)と再会した。21年まで計8年間、担当した見慣れたユニホーム姿ではなく、スーツにネクタイでビシッと決めていたが、屈託のない笑顔は変わっていなかった。
シーズン中はかなわなかった生観戦。日本シリーズ終了後は、所有馬が出走するたびに競馬場を訪れた。馬主席からパドック(下見所)にも足を運び、管理している調教師や厩(きゅう)舎関係者にあいさつし、無事に出走できる感謝の思いを伝えていた。本業の野球でも打撃投手ら裏方スタッフへの感謝を忘れず、食事やゴルフに誘う。野球では豪快なフルスイングが代名詞だが、こまやかな気遣いも忘れない彼らしい配慮が、競馬場でも見えた。
現役中に馬主になった。もうベテランの域に達した野球人生のモチベーションにしているように感じている。10年ドラフト2位で入団し、チームでは6度のリーグV、7度の日本一を経験。15年にはトリプルスリー(打率3割、30盗塁、30本塁打)も達成した。20年シーズンから結んでいる7年の長期契約も来年26年が最終年になる。「引退したら馬主に専念します」とジョーク交じりに話すが、馬主業が一日でも長い現役生活につながると思っている。
“試練”の馬主業1年目。3頭の所有馬が計9レースに出走し、現在も未勝利。昨年10月にはレース中の故障で安楽死処分になる悲しみもあったが、乗り越え、生き生きしているように見えた。柳田選手はグラウンド、所有馬はターフで。ともに活躍することを期待していたい。(中央競馬担当・戸田 和彦)
◆戸田 和彦(とだ・かずひこ) 2001年入社。プロ野球、ゴルフ担当などを経て、22年から2度目の中央競馬担当。