号鼓(ごうこ)の音が響き渡ると、厳かに正式参拝が始まった。先月中旬、函館出身の丹内の姿が地元の上湯川稲荷神社にあった。スッと目を閉じ、心を無にし祈りをささげる。自身の無事と市民、ファンの平穏と…。毎年、北海道シリーズに参戦しているが、函館開催直前はもちろん、その途中にも幾度となく参拝する。「毎年ここに来て無事をお祈りしています。今回、正式参拝してもらったのは初めてだけど、来ると心が洗われますね」と柔らかい笑みを浮かべる。
参拝は16年から5年連続。実は、宮司を務める伊部宣比古氏は、小中学時代の同級生だ。5年前に偶然、街で再会してから訪れるようになった。すると、その年の函館記念をマイネルミラノで制し、函館での初タイトルを手にした。「地元を盛り上げたい」と常に話してきたが、家族、友だちが見守るなか、G3では異例のウィニングランをしたのは有名な話。昨年は函館2歳Sをリンゴアメで制した。「競馬だけじゃなく毎日10頭くらいの攻め馬に乗っているけど、この5年は落馬することもないし、大きなけがも一度もない」と話す。
同神社は、1656年(明暦2年)に創祀(そうし)され、365年もの間、この地域の氏神として人々の心を支えてきた。コロナ禍で、函館開催は入場が制限されているが、丹内は「早く終息してまた多くの人に競馬場に来てほしいですね」と願う。
普段は冗談を言い合う関係だが、正式参拝後、伊部宮司が「ご自愛して、夢をかなえてください」と宮司として、そして仲間として伝えると、深くうなずいた丹内。函館開催もラスト1週。地元に感謝の全力騎乗を届ける。(松末 守司)
◆上湯川稲荷神社 1656年(明暦2年)に創祀。1876年(明治9年)に村社に列せられ、1911年に大山祇神社を合祀(ごうし)した。祭神は、宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)、大山祇神(おおやまつみのかみ)。北海道函館市上湯川町215。