9月20日、ウォーターナビレラが引退した。2022年の桜花賞2着馬。しかし以降は8戦中7戦で2桁着順。8月のキーンランドC(11着)を最後にターフを去った。
その桜花賞はゴール前でスターズオンアースに強襲され、わずか鼻差で敗れた。武豊騎手は翌週の栗東トレセンで、「勝ったと思ったのに…」。凱旋門賞のためフランスに滞在していた間も、当時の話になれば「ホントに勝ちたかった…」と顔をゆがめていた。時間が経っても、海を渡っても癒えなかった悔しさ。それほど勝利を切望したのは、ウォーターナビレラと自身が深い“縁”で結ばれていたからだ。
ウォーターナビレラはデビューから無傷の3連勝で21年ファンタジーSを制覇。幸四郎調教師との“武兄弟タッグ”での重賞初勝利だった。それだけではない。山岡正人オーナー、そして父の良一オーナーを含め、冠名「ウォーター」にとっても待望の初タイトルだった。
先代の山岡良一オーナーは武豊騎手の師匠・武田作十郎元調教師に預託しており、デビュー前から家族ぐるみの付き合いがあった。厩舎解散後も毎年「武作OB会」を開いてくれるなど、数十年来の親交があったが、21年9月に他界。ナビレラがサフラン賞(10月)、ファンタジーS(11月)と連勝したのは、代替わりから間もない頃だった。「その直後にファンタジー勝ったからね。勝ったことはうれしかったね」と思いをはせた。
さらに担当していた大久保諭助手も親友の弟で、幼少期から知る仲。「山岡オーナーから、うちの師匠からのつながりでね。しかも調教師が幸四郎で、担当が幼なじみで、同級生の弟で。そういう色々なストーリーがあったから(桜花賞は)勝ちたかった」。やはり、あの鼻差への悔しさは残ったまま。それでも「いい思い出やわ、先々」と、懐かしむように、優しくほほ笑んだ。
先述したように、ウォーターナビレラは桜花賞後に大敗が続いた。名手は「桜花賞の激闘で、その後やっぱり体調が戻り切らんかったかなあ。その中でのオークスで距離も長かったし、(当日は)暑くて、熱中症みたいになっちゃったかな」と振り返る。決して力負けではない。今年の函館スプリントS、しらかばSはゴール前で伸び、復活の兆しを見せていたという。「頑張ったよ、あの子は。本当に頑張った。全力で走ってた」と、心の底からねぎらいの言葉を贈った。
今後は繁殖牝馬になる予定。武豊騎手は「いい子を生むと思うよ。(種牡馬は)何つけるんやろ」と次のステージでの活躍に期待を込めた。「いつか諭(大久保助手)と大きいとこ勝ちたいなと思うし、山岡オーナーともね。(子供が武幸四郎厩舎に入れば)幸四郎、伏木田牧場、山岡オーナー。おんなじチームや」。ウォーターナビレラは縁の結晶。競馬のロマンを象徴する一頭だと思う。この先も、母として新たな物語を紡いでほしい。(中央競馬担当・水納 愛美)