◆凱旋門賞・G1(10月6日、仏パリロンシャン競馬場・芝2400メートル)
JRA海外馬券発売対象レースの第103回凱旋門賞・G1(10月6日、パリロンシャン競馬場)に、日本調教馬として唯一、シンエンペラーが参戦する。好内容の3着だった前哨戦を経て、矢作芳人調教師(63)=栗東=は「全身全霊をかけて取りたい」と意気込んだ。
挑戦ではない。確かな勝算を胸に打って出る大勝負だ。矢作調教師は22年ステイフーリッシュ(14着)以来、自身2度目となる凱旋門賞にシンエンペラーを送り出す。「バランスを見ていると、欧州に向いてないわけがない。俺の見立てでは。斤量面を考えると3歳で挑むことに意義があります」。暑さで状態を上げ切れなかった前走の愛チャンピオンSも3着。手応えは深まった。
歴史の厚い壁が世界のYAHAGIの反骨心を熱くする。「欧州調教馬以外は勝っていない。そこで勝つことは日本の競馬が強いんだということになる。日本初は大きなモチベーションです」。
21年の米国・ブリーダーズC制覇も日本初の快挙だった。フィリー&メアターフでラヴズオンリーユーが先頭でゴールを過ぎた瞬間、込み上げるものがあった。「英語で言うとMoved。感動というかね。あれを得るために頑張っている」と懐かしそうに振り返る。
打てる手は打つ。今回の遠征には日本から、サッカーのスター選手リオネル・メッシ(37)が使用していることでも知られる高周波温熱器を持ち込んだ。だが、規格の問題で現地では使えなかった。そこで急きょ、スペインから規格の問題がない製品を手配。「チャンピオンSの前は使えなかったけど、今は使えています」。徹底的に万全の体調を求めた。
ソフトだけではない。8日には本番と同じパリロンシャン競馬場で追い切りを行った。「馬場見せが一つ。あと、(森の中にある調教拠点の)シャンティイでは馬がのんびりしすぎる。それを防ぎたかったんです」。現地では2走とも、1週前追い切りで全兄のソットサス(20年)など凱旋門賞2勝の名手Cデムーロに騎乗を依頼。「(凱旋門賞の時は)前回との比較が聞きたかったからね。『全然違う、良くなっている』と」。そう笑顔で切り出すと、「完璧です」とうなずいた。
熱い思いを乗せた仕上げを施し、弟子の坂井に手綱を託す。「まだまだ甘いけど、瑠星で取ってこそ矢作厩舎というのはあります」。04年の調教師合格会見で夢と表現した凱旋門賞制覇は、明確な目標となった。「全身全霊をかけて取りたい」。世界のYAHAGIが再び、日本競馬史にその名を刻む。(取材・構成、山本 武志)
藤田晋オーナーの積極姿勢「うれしかった」
厚い信頼で結ばれている。今年の日本ダービー3着直後。矢作調教師が「凱旋門賞に行こうと思います」と話した記事を見た藤田晋オーナーはXで「もちろん行きますよ」と即座に反応した。
「あれはうれしかったな。前向きな姿勢は我々の計画を後押ししてくれる。海外はオーナーの熱量、夢がないとうまくいきません」。今回もスペインからの治療器具の購入を快諾してもらった。現場の意思を尊重してのサポートは手厚い。
愛チャンピオンSは3着。トレーナーは「ひと安心というか、夢が広がったという雰囲気でしたよ」と藤田氏の様子を明かした。この後はフォーエバーヤングで挑むブリーダーズCクラシック(11月2日、デルマー)も控える黄金コンビ。強い思いを重ね合わせ、頂点を狙っていく。