【有馬記念 橋口元調教師&矢作調教師スペシャル対談 前編】ハーツクライのディープインパクト撃破から14年 今度は娘のリスグラシューがアーモンドアイ撃破だ!

矢作調教師(右)を激励する橋口元調教師。2人が手掛けた父娘の物語が歓喜のエンディングを迎えるか
矢作調教師(右)を激励する橋口元調教師。2人が手掛けた父娘の物語が歓喜のエンディングを迎えるか

◆第64回有馬記念・G1(12月22日・芝2500メートル、中山競馬場)

 今回がラストランとなるリスグラシューを管理する矢作芳人調教師(58)=栗東=と、同馬の父で、あのディープインパクトを破って05年の有馬記念を制したハーツクライを管理していたJRA殿堂入り調教師の橋口弘次郎さん(74)のスペシャル対談が実現した。今回は前編。矢作調教師が描く打倒アーモンドアイへ向けたレースのイメージ、橋口さんが語るハーツクライの思い出などをたっぷりお届けする。

 ―今年も有馬記念の季節がやってきました。

 橋口元調教師(以下「橋」)「誰でも知っている、日本一を決めるレースだね。私も現役時代、力のある馬はまず有馬記念を目指していた。しかし、今年はメンバーがそろっているね」

 矢作調教師(以下「矢」)「おっしゃる通り、今年こそ間違いなく、日本一を決めるレースでしょう。勝った馬が年度代表馬だと思います」

 ―そのレースを橋口元調教師は05年のハーツクライで勝っている【注1】。

 矢「先生、覚えてないですか。僕はあの時、先生と一緒に中山競馬場に行ってるんです。東京駅のホームで総武線を待っていると、たまたま先生がいたんですよ。それで一緒に船橋駅まで電車に乗って、そこからタクシーに乗ったんです」

 橋「全然覚えてないな(笑い)」

 矢「先生に『楽しみですね』と言ったら、『いやいや、化け物がいるから勝てるワケない』と言われたのを覚えていますよ」

 橋「ホントにそんな気持ちだったからね。4コーナー手前でディープインパクトが1馬身半から2馬身まで接近してきた時、『あ~、来たな』と思ったんだけど、ラスト100メートルほどで脚色が同じになった瞬間から声が出たね。普段は出さないのに。あの勝利は本当に格別だった」

 矢「僕は開業初年度で、ダービーや有馬やジャパンCに出られる馬はいなかったけど、なるべく現地でレースを見るようにしていたんです。いずれここに自分の馬を出すんだ、と思いながら」

 ―そのハーツクライの子、リスグラシューで有馬記念初参戦。今回はラストラン、さらにアーモンドアイとの初対決も注目を集めている。

 矢「まず言っておきたいのが、今年は他にも強い男馬がたくさんいる。アーモンドアイだけじゃない、という思いは強くあります。ただ、今世界で一番強い馬じゃないかなと思うのも事実。俺は本来、メンバー弱い、頭数少ない、賞金高いが一番いい(笑い)。けど、有馬記念だからこそ出るんです。ファンがそれを望んでいる。これで負けたら、アーモンドアイはすごいなとファンが喜ぶ。俺は悔しいけど、それは仕方ないことだと思う」

 橋「俺のディープの時と違って、何とかできると思ってるだろ?」

 矢「それは思ってますけど(笑い)」

 橋「俺はひとかけらもなかったよ」

 矢「勝負師だし、全くないこともないと思うけど、今年の俺よりはなかったと思うな、あの時の先生は(笑い)」

 橋「うちの馬はそれまで後ろから差されて負けたことはなかった。だから、もし勝つなら、あの形かなと、うっすら思っていたかな」

 矢「俺も競馬的には、あのイメージですよね。先に抜け出して、アーモンドアイが来た時にしぶとく踏ん張るという形になれば」

 ―ハーツクライは産駒も大活躍。その特徴は?

 矢「成長力でしょう。2歳時のハーツ産駒は正直、見栄えのいい馬は少ない」

 橋「柔らかさかな。ハーツ自身も本当に柔らかかった。子供にも伝わっていると思う」

 矢「今年で開業15年目になるんですが、リスグラシューみたいに牝馬で5歳になってから、これだけ変わるなんて、なかなかね…。体はデビュー時より30キロ近く増え、筋肉のつき方も変わってきた。元々、走っている馬ですからね。これは多分、先生でも経験はないと思うし、ほとんどの調教師の方々がないと思います。こんな牝馬、なかなか巡り会えない」

 橋「ハーツクライも4歳夏の放牧で馬体が適度な丸みを帯び、ガラッと変わったからね。そこから有馬、ドバイでG1を勝ったんだから」

 ―矢作調教師は橋口元調教師の現役時代、同じ坂路小屋【注2】で調教を見ていた。

 橋「最初に話をしたのは、彼がまだ助手の頃。夏の福島で表彰式に出る時、ブレザーがなくて、彼に借りたんですよ。その頃から話はしてたね」

 矢「坂路小屋で調教を見るのは開業当初からです。元々、橋口先生に憧れはありました。そこに音無先生もいて、友道調教師もいる。『あそこがいいな』と思って、橋口先生に『ここで調教を見させてもらいます』と挨拶したんです」

 橋「気を遣わんでいいと思っただろう」

 矢「実際に先生から学んだことは、スタッフを大事にする点。かわいがるようにと言われたこともあります」

 橋「やはり、彼らは調教師に生活が懸かっているわけだから。常にいい競馬をさせたいなと思っていたね」

 ―矢作厩舎は開業後、自主的にやめたスタッフがいないことが有名。

 矢「それだけは守っているというか、誇れる部分だと思っています」

 【注1】無敗の3冠馬ディープインパクトが単勝1・3倍の圧倒的1番人気に支持された。レースは今まで差す競馬をしていたハーツクライが意表を突く好位追走から早めに抜け出す。直線なかばからディープに差を詰められたものの、最後までしぶとく脚を伸ばし、半馬身差でG1初制覇。ディープにとっては、国内で唯一の敗戦になった。

 【注2】栗東・坂路の馬場監視員が、調教中に常駐する部屋。モニターもあるため、ここで調教を見る調教師も多い。

 <引退もったいない完成度>

 ○…リスグラシューは15日、栗東の坂路を60秒1で走破。ラストは13秒9と軽く脚を伸ばした。岡助手は「予定通り。引退させるのがもったいないくらいの完成度。遠征を終えて戻ってきて、ここまで良くなるかという感じ。こっちの思っている以上に、心身ともに充実している」と上昇カーブを描き続けている。

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