【有馬記念 橋口元調教師&矢作調教師スペシャル対談 後編】リスグラシュー騎乗レーン騎手は初めての中山 矢作調教師「何てことない」

ディープを倒した05年グランプリの再現を―。矢作調教師(右)と橋口元調教師は固い握手を交わした
ディープを倒した05年グランプリの再現を―。矢作調教師(右)と橋口元調教師は固い握手を交わした

◆第64回有馬記念・G1(12月22日・芝2500メートル、中山競馬場)

 有馬記念(22日、中山)が引退レースとなるリスグラシューを管理する矢作芳人調教師(58)=栗東=と、同馬の父で、ディープインパクトを破り05年の同レースを制したハーツクライを管理したJRA殿堂入り調教師の橋口弘次郎さん(74)によるスペシャル対談は後編。特例としてレース当日限定の免許で騎乗するダミアン・レーン騎手(25)=豪州=への期待、そして、ジョッキーを巡る05年との「共通点」に話題が移った。

 ―リスグラシューは特例【注1】でレーン騎手とのコンビが決まりました。

 矢作調教師(以下「矢」)「ラストランは納得できるジョッキーで、ということもあるけど、有馬記念はやはりファン投票だから。宝塚記念、コックスプレートを勝っている以上、レーンの乗るリスグラシューをファンが見たいだろう、納得する形だろう、と思っていました。周りにはよく言われるんですよ。レーン中山初めてだろ、って。あれだけの超一流になって、色んな映像も見られる今、何てことないだろうと思いますけどね」

 橋口元調教師(以下「橋」)「ハーツクライが勝った2005年。実はルメールも、有馬記念の日が初めての中山だったんだよ。最初はルメールに前に行ってほしいと言おうかと思っていたんだけど、彼が共同会見で『前に行きたい』と言っていてね。聞くと、過去10年ほどの有馬のビデオを見たという。もう俺は言うことないな、と」

外国人騎手歓迎 ―今年もレーン騎手を始め、世界の名手たちが日本で大活躍している。

 橋「まず、追える。ばてているように見える馬でも、また伸びてくる。それに、勝負どころでいつの間にかスッといい位置につけている」

 矢「海外の騎手は手綱を短めにガッチリ持って、行きたがっているように見えるんだけど、ラストは伸ばすんです。体のバランスというか、体幹がしっかりしているからかな。日本の騎手は、世界の超一流が来ていることをむしろいい環境だと思わないと。外国人にばかり勝たれるとか言わないで」

 橋「そんな気持ちの小さいことではダメだよね。勝負の世界だから、仕方ない」

 矢「海外で言えば、これから日本馬が凱旋門賞とか取りたいなら、(JRAのレースで負担重量を)1、2キロ増やせと言っているんです。例えば古馬の牡馬は凱旋門賞が59・5キロ、キングジョージが60・5キロ。しかも、あの重い馬場でしょ。ヨーロッパは特に平気で60キロは背負う競馬なんです。今の日本では背負っても(平地では)58キロぐらい」

 橋「斤量に対する慣れという部分は大事だし、それも勝てない理由の一つだと思う。あとはある程度、腰を据えて、現地の競馬を経験させることも必要かもしれない。ハーツクライのキングジョージの時、ルメールは『こちらで一度使っておけば』と言っていた【注2】」

 矢「向こうに行けば、走り方も筋肉のつき方も変わってくる。適性が違うんですよ、特に凱旋門賞は。日本で一番強い馬を連れていけばいい、というものではない」

 ―最後に橋口先生から矢作調教師にエールを。

 橋「引退してからもハーツの名前を新聞なんかで見つけると、未勝利戦でもうれしくなる。今回、その子供が日本一を決めるレースで勝つようなことがあれば、本当にうれしいね。アーモンドアイや牡馬相手でも、何も臆することはない。堂々と戦ってほしい」

 矢「ありがとうございます。相手に化け物はいますが、ルメールも中山が初めてだったというのは今回、初めて聞きました。そういう意味でも、ハーツクライがディープに勝った有馬に重ね合わせたいですね。頑張ります!」

 【注1】同じ年に同一馬でJRAのG1を2勝以上を挙げた外国人騎手は、最長3か月の短期免許期間が終了していても、その年に同じ馬でJRAのG1に騎乗する場合は免許を申請できる。有効期間はレース当日のみ。レーンはリスグラシューと宝塚記念に加え、日本で馬券が発売されたコックスプレートを勝ったことでJRA・G1・2勝と同等の扱いとされた。

 【注2】06年3月のドバイ・シーマCを勝った後、栗東に一度戻ってから、7月29日の英G1・キングジョージ(アスコット競馬場)に挑むため2週前に現地入り。輸送で馬体を減らしたが、レースはハリケーンラン、エレクトロキューショニストという現地の一線級を相手に互角の叩き合い。惜敗の3着も地力の高さを示した。

 ◆矢作 芳人(やはぎ・よしと)1961年3月20日、東京都生まれ。58歳。04年に調教師試験に合格し、翌年に厩舎を開業。JRA重賞は07年のスワンS(スーパーホーネット)、G1は10年の朝日杯FS(グランプリボス)で初制覇。14年に全国リーディング1位。JRA通算624勝。12年日本ダービー(ディープブリランテ)などG1・7勝。

 ◆橋口 弘次郎(はしぐち・こうじろう)1945年10月5日、宮崎県生まれ。74歳。大学卒業後、地方の佐賀競馬の騎手を経て、71年から栗東トレセンで厩務員に。80年に調教師免許を取得し、82年に開業。90年に全国リーディング1位。JRA通算991勝。92年の天皇賞・秋(レッツゴーターキン)などG1・10勝。

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