◆第82回オークス・G1(5月23日・芝2400メートル、東京競馬場)
第82回オークス(23日、東京)は、無敗の牝馬2冠に挑む白毛のソダシが注目の的だ。サラブレッドの血統を遺伝という科学的視点から研究している獣医師の資格を持つ堀田茂氏(58)は、「生物学的に興味を抱ける馬」と表現。祖母シラユキヒメから広がる一族には、毛色以外に高い競走能力を備える遺伝子が受け継がれた可能性があると指摘した。ソダシにまつわる興味深い話を「ソダシ おもシロい話」として取り上げます。
堀田氏は幼い頃、競馬好きだった父親の影響でサラブレッドに出合った。「もともと生き物が好きで、遺伝という生命現象に興味がありました。血統本を読みあさっていたのは中学、高校時代から。この分野は科学的な方向から突っ込む人があまりいません」と笑う。平日は会社員として働き、土日は主にライフワークとする「21世紀生まれの全世界のGI馬を網羅した母系樹形図の作成」を行っている。
1979年のハクタイユー、83年のカミノホワイトに続き、シラユキヒメが突然変異による国内3頭目の白毛として誕生して25年が経過。その孫であるソダシがクラシックを制した。「短期間でハヤヤッコ、ソダシ、メイケイエールと3頭の(JRA)重賞勝ち馬が出ました。かなりの高打率。メイケイは鹿毛ですが、どうしても『この一族には何かある』と考えてしまうんです。生物学的に興味を抱ける馬が出てきた感じ。非常に面白い」。いま要注目のファミリーだと語る。
白毛の遺伝子は、他の全ての毛色に対して優性だという。交配する種馬が白毛以外の場合は白毛の子どもが出る確率は50%だが、シラユキヒメの産駒は12頭中10頭が白毛と多い。この母系はソダシが出るまで注目されていなかったこともあり、堀田氏は「(白毛産駒の高確率は)母数が少なく誤差の範囲と言われても仕方ない」と前置きしたうえで「シラユキヒメの突然変異時に毛色とは別の、競走能力に影響を与える『何か特有のもの』が発現した可能性があります。白毛の遺伝子が乗っている染色体に、いい競走能力が乗っている遺伝子もあるのでは」と指摘。問題提起する価値があるとした。
これまでの白毛はダートでの実績が目立った。芝で結果が出始めたことには「サンプルが少ないですし、この血統の実績から、関係者の主観もダートに向いたという考え方もできます。もちろん、ソダシの父クロフネ自身は“二刀流”。芝で走る産駒もたくさん出していますから」と説明。ブチコなどに見られるぶち模様は、遺伝学的にまだ解明されていないという。
研究者としては数年後にソダシが繁殖牝馬になれば楽しみが膨らむという。「シラユキヒメのひ孫になるメイケイエールを含め、かなり期待しちゃいます。配合相手にもよりますが、大発見があるかも」と声を弾ませた。
「血統や遺伝のことを知らない人は多い。橋渡し役になれれば」。今後、白毛の種牡馬が現れれば、純白の馬体は珍しくなくなるかも知れない。2冠が懸かるオークスは「過剰なまでに楽しみにしています」と堀田氏。白い一族のさらなる繁栄に思いを巡らせながら、テレビ画面越しに声援を送るつもりだ。(吉村 達)
◆堀田 茂(ほった・しげる)1963年3月13日、神奈川県生まれ。58歳。麻布大学大学院獣医学研究科修士課程修了。獣医師資格を持つ。サラブレッドの血統を遺伝学的観点から探究している自称「B級科学者」。自費出版本に「サラブレッドの血筋」(初版~第3版)がある。ホームページはhttps://www.hotpedigree.com/blood/