◆第27回ドバイ・ワールドカップ・G1(3月25日、メイダン競馬場・ダート2000メートル)
ドバイワールドカップデー(25日、メイダン競馬場)に日本馬が27頭出走を予定している。前年のジャパンCとチャンピオンズCの覇者の対戦、前年のダービー馬対最優秀短距離馬、そして年度代表馬イクイノックスの初海外参戦と話題は尽きないが、最も注目を集めるのがワールドCに臨むパンサラッサだ。世界最高賞金額のサウジCを制して約13億円を手にし、今回の結果次第で日本調教馬の総獲得賞金トップに躍り出る。大きな挑戦を前に、管理する矢作芳人調教師(62)=栗東=に意気込みを聞いた。
一撃でとんでもない夢をつかんだ。パンサラッサによる優勝賞金13億円のサウジC制覇。世界の大一番を数多く経験してきた矢作調教師でも、興奮を抑え切れずにいた。
「ダービーを勝った時も『人生変わるな』みたいな感じがしたけど、今回は一般のニュースでもやっていたり、賞金の持つインパクトの大きさからか、もっとだね。ダービーの時以上に人生が変わった気がします」
世界をアッと言わせた逃亡劇。実は思わぬ誤算を乗り越えた勝利だった。
「去年はアメリカのダートをオールウェザー寄りにした、ウッドチップやゴムチップが混じっているような馬場。日本の馬は走りやすいと思っていました。しかし、今年は深いダートになっていたんですよ。それを見て、ちょっと自信が揺らいだ部分はあったね。ただ、もともと芝の不良馬場が得意な馬だから、こういう点で適性もあったのかな、と思う。それは俺の見立て違いでした」
原点の地へ戻ってきた。矢作師は05年の開業から積極的に海外遠征を行いながら、10年以上も結果を出せずにいた。苦しみながら、ようやく初の歓喜にたどり着いたのが16年。リアルスティールのドバイ・ターフだった。
「よく覚えていますよ。(挑戦を続けていたが)当時はいつか勝てるなんてことは思っていなかったよね。あの勝利は本当に自信になった」
あれから7年。海外で数々の勝利を積み重ね、「世界のYAHAGI」と呼ばれるようになった。
「うちのスタッフは海外でも平常心で、栗東以上に楽しんでいる。それは強みだと思う。調教師もだけど、経験が少ない時は色々と神経質になるんです。それは馬によくない影響を及ぼすからね。あと、チームで行くのも大事。バスラット(レオン)とジャスティンは仲が悪いけど(笑い)、知っている馬がいる安心感はあると思うし、調教のバリエーションも広がる」
多くの経験が紡いできた厚い絆。サウジ遠征でもチーム力による“秘策”が激走を呼び込んだ。
「レース当日に1000メートルほどある練習馬場で乗りました。当初の予定にはなかったけど、スタッフからの提案です。発走時間が遅かったし、(普段は)朝早めに調教もしていたので、いいだろうな、と。海外は落ち着きすぎるので、バランスという面を考えてのことですね」
熱い視線が向けられているのは身内だけではない。今回のドバイ・ワールドCは日本馬が8頭出走。日本競馬を引っ張るホースマンとして、大攻勢を頼もしく感じている。
「こうなっていかないといけないと思う。凱旋門賞を取るにしても、色々な路線からバラエティーに富んだ馬が挑戦する。そういう機運が出てきたことは歓迎すべきこと。それを自分で主導して、俺を真似してやっている部分も結構あると思うのでうれしいし(笑い)、大事だと思います。世界の大レースを日本の馬が総なめにしていくには、俺一人ではできないです」
その中にもちろん、パンサラッサがいる。9億円超えの優勝賞金を手にすればもちろんだが、4着以内で日本馬の最高獲得賞金記録を塗り替える。
「1800メートルがベストの馬で、マークもきつくなる。楽な競馬にはならないでしょうけど、やることはひとつ。ゲートを普通に出て、ハナを取り切ってさえくれれば、その時点で俺はもう満足かなと思っています」
言葉こそ慎重だが、ワールドCへの参戦は信頼するスタッフから現地のダート調教での感触を聞き、先行有利のレース傾向を踏まえたうえでの決断だ。まだ、夢には続きがある。(山本 武志)