
新人調教師9人が5日付で開業する。JRA女性初の調教師となる前川恭子技術調教師(47)は、世界の舞台で活躍する矢作芳人調教師(63)=栗東=を目標に栗東で第一歩を踏み出す。騎手から転身した田中勝春さん(54)は美浦で、秋山真一郎さん(46)は栗東でそれぞれ厩舎を構える。
新たな歴史が動き出す。JRA初の女性トレーナーとなる前川調教師に開業が迫ってきた。「とにかく楽しい厩舎にしたい。いいことも失敗も共有して、よりよい厩舎を皆でつくりたいなと。そうすれば成績も上がるかなと思います」と瞳を輝かせる。
この世界に入った03年から志していた調教師への道。仕事を重ねるにつれ、自分のやりたいことが増えたことで、道なき道へと動き始める覚悟を決めた。「海外は(馬に携わる人の)半分ぐらいが女性で、日本もそうなるのが自然だと思います。どんどん女性に入ってきてほしい」。一般紙やテレビなどの取材も多く、日増しに高まる注目度。てきぱきと開業準備に走り回る姿は活気に満ちあふれている。
大きな武器は行動力だ。技術調教師としての研修を頼んだのが、当時はほぼ面識がなかった矢作調教師。調教師試験の合格が決まった当日の午後、厩舎へ駆け込んだ。「私は数を多く使いたいんです。出走が少ないと本当の適性が分からないし、なるべく多くの馬にチャンスを与えたいから」
その極意を学ぶため、昨年1年間はすべて矢作厩舎中心に活動。ケンタッキーダービーやブリーダーズカップなど数々の海外遠征にも同行した。「一言では言えないけど、戦略的な使い方はもちろん、先生がいない時でもスタッフが発想や意図を理解しているし、先生も本当に監督している。意見の往復はすごいです」。経験豊富なトップステーブルで過ごした日々は、貴重な“財産”になった。
いよいよ、大きな第一歩を踏み出す瞬間が近づいている。「理想は矢作先生です。すごく気遣いの人。大胆だけど繊細です。矢作イズムを最も色濃く受け継ぐ弟子になりたいです」と笑顔。大きな師匠を目指し、競馬界にさわやかな新風を吹かせる。(山本 武志)
◆前川 恭子(まえかわ・きょうこ)1977年4月9日、千葉県生まれ。47歳。11歳で乗馬を始め、筑波大卒業後に牧場勤務。03年7月にJRA競馬学校入学。同年10月に栗東の崎山博樹厩舎に入り、厩務員から助手になる。主な担当馬は08年京阪杯を制したウエスタンダンサー。その後、坂口智康厩舎を経て、23年12月に調教師試験合格。仕事と両立しながら育ててきた一人娘は現在、高校2年生。
〈地方・海外ではすで大活躍〉
地方競馬や海外では、すでに女性調教師が活躍している。地方初は1962年に調教師免許を取得した大川よね師(北海道)で、今まで9人いる。現役では騎手として747勝を挙げ、21年に調教師免許を取得した宮川真衣師(旧姓・別府)をはじめ7人。海外では、2013、14年の凱旋門賞馬トレヴを管理したクリスティアーヌ・ヘッド師や、23年の米G1・ベルモントS(アルカンジェロ)で女性初のクラシック制覇を遂げたジェナ・アントヌッチ師が有名。豪州のゲイ・ウォーターハウス師は、オーストラリア競馬殿堂入りを果たしている。また昨年のジャパンCには、ドイツのサラ・シュタインベルク師がファンタスティックムーン(11着)を出走させた。