【2024年レース回顧】藤岡康太さんが背中を押したジャスティンミラノ 友道調教師が決戦前日に訪れた「ある場所」

皐月賞を制したジャスティンミラノ(中)(カメラ・荒牧 徹)
皐月賞を制したジャスティンミラノ(中)(カメラ・荒牧 徹)
ジャスティンミラノ騎乗で勝利した戸崎圭太騎手(左)を抱き寄せる友道康夫調教師(カメラ・荒牧 徹)
ジャスティンミラノ騎乗で勝利した戸崎圭太騎手(左)を抱き寄せる友道康夫調教師(カメラ・荒牧 徹)
藤岡康太さん
藤岡康太さん

◆皐月賞・G1(4月14日、中山・芝2000メートル、17頭立て※1頭が競走除外=良)

 静寂の中で、そっと手を合わせた。レース前日となる4月13日の午前8時半。友道調教師は観客が入る前だった阪神競馬場のダートコースの3コーナーにいた。この日は藤岡康太さんが前週の落馬事故が原因で10日に亡くなってから、初の競馬開催。自ら現場まで足を運んだ。どうしても「ありがとう」を言いたかった。「彼が落馬した時も阪神にいなかったし、最後まで会えずじまいで終わってしまったからね」。

 ジャスティンミラノを送り出した皐月賞ウィーク。常に心は落ち着かなかった。事故直後から康太さんの容体がずっと気にかかり、訃報に接してからは様々な記憶がよみがえった。フリーになった13年以降は、開催日を除けば毎日のように調教を依頼。10年以上変わることなく、騎手の感覚をしっかりと明るく伝えてくれる姿勢は厚い信頼を生んだ。「ジャスティンミラノの共同通信杯の1週前追い切りで『来週使えば、3歳の勢力図が変わるかも』と言われてね。オッと思ったのを覚えています」。康太さんの「予言」を現実へ変えるための戦い。感謝を伝え、気持ちを切り替え、友道師は決戦の地へ向かった。

 レースは前半5ハロン57秒5の激流。ジャスティンミラノはそれまで2戦で63秒1、62秒7の超スローペースしか経験したことがなく、3コーナーから手綱は激しく動き始めた。脳裏に「ダメかな」という思いがよぎる。直線なかばでも先頭を行くジャンタルマンタルとの2馬身近い差は詰まらない。

 しかし、だ。ラスト100メートル過ぎ。全身の力をすべて四肢に集中させるように末脚を絞り出した。友道師から「康太! 康太!」と声が飛ぶ。ゴール前で内のジャンタルマンタルを飲み込み、外からの追撃も封じ込んだ。「この勝利は彼のおかげだと思います」。引き揚げてきた愛馬の姿に康太さんの笑顔が重なる。涙が止まらなかった。天国から背中を押されたようにつかんだ1冠目。翌日に行われた合同葬で最高の報告ができた。

 秋にも思わぬ形で康太さんの存在の大きさを知った。今年と同じローテを目指した昨年のドウデュースの追い切り映像を見返した時のことだ。「本当に康太が併せ馬の相手とかで、よく乗っているんだよ。(ペースの)調整はうまかったから。また、思い出しましたね」。武豊がケガで騎乗できなかった昨年のジャパンCの1週前追い切りでも「代打」に指名。今年のスターホースを語る上でも欠かせない存在だった。

 2頭ともに引退し、来春からは種牡馬としてのスタートを切る。「皐月賞もだいぶん、前のように感じる。今年はいいことも、つらいこともあったな」。キャリアハイの53勝&G1・4勝。そして、様々な思いを紡ぎ、血をつなげた。友道師にとって、記録と記憶に残る一年だった。(中央競馬担当・山本 武志)

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