
◆サウジカップ・G1(日本時間2月23日、サウジアラビア・キングアブドゥルアジーズ競馬場・ダート1800メートル)
忘れられないひと言がある。22年10月2日の凱旋門賞デー、パリの夜だった。フォレ賞・G1(3着)の騎乗を終えた坂井騎手が「来年は凱旋門賞乗るわ」と言った。当時はまだJRA・G1も未勝利。志の高さに驚いた。
23年の暮れに、その真意を聞く機会があった。「覚えてないよ。結局乗れなかったしね」と一笑。しかし昨年には、27歳で凱旋門賞初騎乗を果たした。夢物語ではなかった。何げなく発した言葉にも、世界への意識がにじみ出ていたのだろう。
欧州、中東など9か国で騎乗し、昨年までに海外重賞4勝。同年代で並ぶ者はいない。だからこそ、名手との差も痛感してきた。「海外のトップジョッキーと比べたら、総合点が足りない。ビッグレースで僅差になったときは、その差だと思う」。昨年のケンタッキーダービーは勝ち馬から鼻+鼻差の3着。快挙にも「あそこまで行ったら勝ちたかった」と、悔しがっていた姿が重なった。
デビュー2年目から海を渡れたのは、もちろん所属する矢作厩舎のバックアップがあってこそ。だが、そこに甘んじる姿勢はない。「ちょっとずつ、ちょっとずつ、経験値を増やして(総合点を)上げていくしかない。経験値に見合った技術がないから、そこはもう頑張っていくだけ」。自身を「センスない」「馬乗りは全然うまくない」と評したこともある。坂井瑠星は、努力の人。次戦のドバイ、そして昨年のリベンジがかかるアメリカ…。その名を世界中で輝かせていくはずだ。(水納 愛美)