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◆第67回有馬記念・G1(12月25日、中山・芝2500メートル)
「天才」が有馬記念の歴史に名を刻む。天皇賞・秋でG1初制覇したキタサンブラック産駒のイクイノックス(牡3歳、美浦・木村哲也厩舎)が6戦目で制すれば、史上最少キャリアでのVとなる。管理する木村調教師(50)はスポーツ報知の独占インタビューに「天才」の由縁を説明。今後の試金石と位置付け、混戦の年度代表馬争いも絡む一戦を前に「勝つしかない」と宣言した。(取材、構成・恩田 諭)
―ともに2着だった皐月賞、日本ダービーを経て、前走の天皇賞・秋は強い勝ち方で初G1タイトルを獲得した。
「ジオグリフとシャフリヤールに挟まれて下げざるをえなかったけど、位置は悪くなかった。ただ、ラスト1ハロンになって(パンサラッサが大逃げしていて)『ああ、また2着か』と頭をよぎった」
―上がり最速32秒7の驚異的な脚、さらに1馬身差。
「あの1馬身は価値がある。鼻差とかより、ちゃんと抜ききった。勇気が持てる」
―調教でも手前を替えないことがある馬が、左→右と替え、最後はさらに左に替えてトップスピードに乗った。
「ひと夏越して、手前も替えられるようになっているし、成長というか、積み重ねですね」
―イクイノックスを「天才」と称してきた。
「『頑張ってます』って姿を見せないんだよ。ジオグリフは『ご飯いっぱい食べていつも元気です!』『はりきって調教やりました!』って。パドックでも『やるぞ』オーラを出す。でもイクイノックスは、スポーツとかに例えると『俺を試合で使ってください!』みたいなアピールがないんだよね」
―それでも結果を出す、と。
「サッカーで言えば、試合でスッとキラーパス通しちゃうっていうか。静かに雰囲気は出しているんだけど、努力を人に見せない。ガリ勉で進学塾通って勉強できますってタイプとも違う。(漫画の)キャプテン翼で言えば、ジオは日向くん、イクイノックスは翼くん、というか岬くんかな」
―昨年の東京スポーツ杯2歳Sは圧巻だった。
「うちの厩舎は脚を使うかどうかってところが第一義。しっかりゴール板まで走りきる。実は東スポ杯2歳Sの追い切りは失敗したんだよ。だから本当にびっくりした。それでもああやって脚使っちゃうんだから、やっぱり『天才』だよ」
―半兄のヴァイスメテオールが今年のエプソムC前に不慮の事故で天国に旅立ちました。
「天皇賞の前にお花と線香を持って、(美浦トレセン内にある馬を供養するための)馬頭観音に行った。『弟の背中を押してください』って思いを伝えた。勝った後も再度行って『ありがとう』と伝えたよ」
―有馬記念ファン投票は3位。注目が高い。
「高校を卒業してから疎遠になっていた同級生2人から今年、連絡が来た。高校2年の時の有馬記念(89年)の日、3人で東京競馬場(レースは中山)に行ったんだよね。みぞれが降ってる中、ポケットに手を突っ込んで歩いていた。イナリワンが勝ったんだけど、あのときから自分の競馬がスタートしている感じ。その3人で、都内の居酒屋で食事をした。管理している馬の活躍が目に留まったのがきっかけになったんだね。これは個人的な話だけど、もっと多くのファンの皆さんにも喜んでもらえるような仕事をしたいよね。だから勝つしかない」
―有馬記念を勝てば、史上最少キャリアの6戦目でのVで、今年のG12勝目。年度代表馬も見える。
「『タイトルホルダーはG1を2つ勝ってますから』って周りには言われるよ。でも、皮算用はできない。俺はいい脚を使えるように頑張るだけ」
―イクイノックスの馬名は「昼と夜が等しくなる時」、つまり春分と秋分という分岐点でもある。今回の有馬記念は分岐点になるか?
「どういう馬になっていくかっていう試金石になっていくんじゃないかな。内弁慶で終わるか、世界のホースマンに見てもらえるか」